クラウドファンディングにおける過去の行為が支援獲得に及ぼす影響に関する計算社会科学的研究
「理論と方法」34巻2号, P124-137, 2019.8)
中井 豊(芝浦工業大学)
瀧川 裕貴(東北大学)
大谷 仁哉(株式会社SBI BITS)
雨宮 俊貴(株式会社 ユーザーローカル)
本研究では、クラウドファンディング(CF)の企画者が持つCF内の社会関係 資本が、現在の支援獲得にどう影響するかを調べた。このため、社会関係資本 を、企画者が過去に「直接」支援した・支援された人々(企画者の「友」:1次 圏)と「友の友」(2次圏)で定式化するとともに、日本最大のCFサイトである Readyforをスクレイピングして得た述べ31万回の支援行為データから各企画者の 持つ社会関係を計量した。そして、支援獲得に社会関係資本が影響しているか、 多変量解析を行なった。その結果、企画者Xが、1過去に多くの支援を受けてい るほど(大きな1次圏)、また、2過去に直接支援した他の企画者が多くの支援者 を獲得しているほど(大きな2次圏)、支援獲得につながることが分かった。

意味世界の計算社会科学的分析に向けて:社会学におけるトピックモデルの意 義の検討
「理論と方法」34巻2号, P68-83, 2019.8)
小田中 悠(慶応義塾大学)
中井 豊(芝浦工業大学)
本研究では、「さいたまトリエンナーレ 2016」(芸術祭)の来場者アンケートの回答(自 由記述)を、自然言語処理モデルのトピックモデル使って、テキストマイニングを行なった。 その結果、来場者が芸術祭に抱く関心のあり方(トピック)が 7 つ見出され、更に、来場者 の性別・年齢などの属性と来場動機(「小さな子供への知育」など)が紐付けできることを 見出した。Schutz は、人が世界を主題・解釈・動機によって捉えること、そしてその体系(レ リヴァンス体系)が集団に蓄積されることを指摘したが、この結果は、集団が実際にレリヴ ァンス体系を共有することを明らかにした。

地域再生事業にみるコモンズ問題の解決
(「理論と方法」29巻2号, P291-305, 2014.11)
小池心平(東京工業大学)
中井豊(芝浦工業大学)
本研究では、公共財供給ゲームにおける非参加戦略を用いて、フリーライダー問題を内包しつつ過疎化によりコモンズが荒廃する状況を定式化した。そして、地域活性化に協力 的な移住者に着目し、移住者と地域住民がコモンズ管理の枠組みの外で地域資源を活用する地域再生事業を協業すると仮定した上で、フリーライダーと過疎化の問題を同時に解決 しうる事業の条件を探索した。その結果、少数の移住者と多数の地域住民による共同事業だけがコモンズの維持と過疎化対策に寄与し得ること、地域への公的補助の増額は移住を促進するが、移住者をフリーライダーに変え、再び共有地の悲劇が生じることが分かった。

固定タグと集団内の評判に基づく友人選別戦略による内集団びいきの発生
“In-group favoritism due to friend selection strategies based on fixed Tag and within-group reputation” (Rationality and Society, Vol.26(3), P320-354, 2014.8)
中井豊(芝浦工業大学)
本研究では、人々が共通の固定タグを持つことで協力関係が生まれるかを調べた。具体 的には、他者をタグ(赤と青)の同異と過去の行為(協力・非協力)に基づき評価する様々 なルールを準備し、どの評価ルールが支配的になるか進化シミュレーションを行なった。 その結果、同じタグを持つ者同士で協力関係が生まれることが分かった。本研究のタグは、 利得とは無関係に定義されており、最終的にタグの識別と利得獲得に関係が生まれた点が 興味深い。

熱狂するシステム
(ミネルヴァ書房, 全 226P, 2009)
中井豊(芝浦工業大学)
類似の様式が連続して普及する現象を熱狂現象と定義し、様式の普及のエージェント・ ベース・シミュレーションを行い、様式の採用と不採用の態度に関して人々が互いに影響 を及し合う結果、社会に熱狂的雰囲気が醸成されていくかを調べた。その結果、ミクロに は、様式の採用に敏感な者(敏感者)同士のクラスターの発生と消滅が社会全体の熱狂の生 成と崩壊を先導すること、マクロには、熱狂の生成と崩壊が冷静相と熱狂相を行き来する 一種の相転移現象と見なしうることを示した。
